書道を習い続けていると「臨書」という言葉に出会うことがあるかもしれません。臨書とは、過去の古典がもつ優れた筆跡をお手本に書く、という練習方法です。一般的な書道の練習である「書写」とどのように違うのか疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
今回はそんな「臨書」について、その目的や意味、臨書にある3つの書類、練習する上で具体的に大切にすべきことなどを解説していきます。
臨書(りんしょ)とは
「臨書」は書道における練習方法のひとつであり、その特徴は次の2つです。
臨書の特徴 |
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古典をお手本にして練習を積み重ねる臨書のほぼ真逆となるのが「自運(お手本なしに自分で創意工夫をして書くこと)」です。それでは、臨書の特徴について詳しく解説していきましょう。
臨書とは「優れた筆跡をもつ古典をお手本にして書写すること」
臨書とは、価値のある書を書き上げるために、長い間伝えられてきた名品である「書の古典」から直接学ぶという練習方法です。
書道の学び方としては「先生や指導者の書いたお手本を真似て書く」という方法が一般的です。その通りに何度も練習を積み重ねることで、先生と同じような字を書けるほどに上達します。これは文字を整え正しく書くことを重視した練習方法であり、現在も小中学校でおこなわれることが多いです。
しかし、主に高校以降の書道では「書道=芸術」として捉え、最終的にはお手本通りにきれいに書くのではなく、自分なりの表現方法で作品を書き上げる練習方法をしていくことになります。それが「臨書」です。
臨書の最終目標は「自分の感性を表現する方法を身につけること」
今から約100年前、日本文化を西欧化の波から守ろうとする動きがありました。比田井天来(ひだい てんらい)という書道家もそのうちの一人であり、「書は東洋ならではの芸術である」と考え、次のような論理的思考が生まれました。
臨書が生まれた経緯 |
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臨書の最終目標は「古典を習い、自分なりの表現方法を探求するベースを作ること」です。では、書の古典をもとに、具体的にはどのように自分なりの表現方法へのヒントを身につけていくのでしょうか。
臨書には3つの段階がある
臨書には「形臨」「意臨」「背臨」という3種類があります。まずは形臨からはじめ、練習を積み重ねて背臨まで進めていくことになります。では、それぞれの練習方法について詳しく見ていきましょう。
形臨(けいりん)
形臨は、「価値ある書」とされる古典の字形や用筆といった技術的な面の習得を目的とする練習方法です。自分の個性を出さず、古典の字形や用筆をそっくりそのまま真似をして書く練習を重ねます。
意臨(いりん)
形臨ができるようになってきたら、次の段階である意臨へ移ります。意臨は、古典の字形以外の要素である雰囲気や運筆のリズムなどに重きを置いて書く練習方法です。
意臨では、お手本にしている古典を書いた作者が、どのような時代にどのような気持ちでその作品を書いたのかという意図を把握することが目的とされます。つまり、作品の字形のみならず、作者の精神も含め、まるで作者そのものになったかのような気持ちで作品を書く練習をしていくことになります。
背臨(はいりん)
背臨は、古典の字形・雰囲気・書風・時代背景などを学んだ上で、そのお手本を見ずに書く練習方法です。背臨では、古典の書風を自分のものにしていくことを目的としています。
最終的には「倣書(古典から学んだ技法を活かし、自分の個性を発揮した別の文字を書くこと)」へたどり着ければ、世界が広がります。
臨書をおこなう際に大切にしたいこと
昔の書を書き写すことで、自分なりの個性を活かした書道作品を書くヒントを見つけていくのが臨書です。個性の塊のような書道作品を書く書家でさえ、時に客観的な視点をもつために臨書をおこないます。そんな臨書をおこなう際に、心に留めておきたいポイントは次の3つです。
臨書をおこなう際のポイント3つ |
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古典の作者がその作品を書いた現場を追体験しようとすることで、作品への理解が深まります。また、一点一画を精密に観察し、作者の意図も少しずつ見えてくるようになります。模写を続けることは、字形や字間、行間などの間合いを把握することにつながるでしょう。
まとめ
臨書とは、自分がお手本にしたい古典を見つけて模写を積み重ね、時代背景や書風までも理解し、最終的にその学びを活かして独自の書風を生み出すベースを作り上げるための練習方法です。なかなか深い練習方法ですが、書道で先を目指すのであれば、臨書は大変意義のあるものだといえます。
書道研究 尚美社では幅広い書道の指導に加え、文字のなりたちや書の歴史を学ぶ講座も実施しています。臨書について学びたいとお考えの方も、ぜひお気軽にお問い合わせください。